はじめに

風土記とは

風土記ふどきとは、713(和銅6)年の元明げんめい天皇のみことのりによって、諸国で編纂へんさんされた地誌です。勅命では、次の5項目を報告するよう求めています。

  • こおりさとに好ましい漢字を付ける
  • 特産品の目録を記す
  • 土地の肥沃度合を記す
  • 山川や原野など地名の由来を記す
  • 古くからの不思議な言い伝えを記す

このように、神話だけでなく、諸国の状況を示すたくさんのことが載っています。奈良時代の日本のすがたを、つぶさに教えてくれているんです。風土記の魅力は、一言では語り尽せません!

当時、60余りのくにが置かれてしましたが、残念ながら現存している風土記は、わずか5国の写本と、後世の書物に引用された逸文いつぶんのみです。
出雲国いずものくに風土記』はほぼ完本とされていますが、『播磨国はりまのくに風土記』・『常陸国ひたちのくに風土記』・『肥前国ひのみちのくちのくに風土記』・『豊後国とよくにのみちのしりのくに風土記』は、一部欠落した状態で残っています。

各風土記に記された説話について、おおまかに紹介します。
『出雲国風土記』はオオナムチ(オオクニヌシ)を中心とした、ほぼ神話で占められています。記紀神話でもなじみの深い神さまが、たくさん登場します。
『播磨国風土記』は、伊和大神いわのおおかみやアシハラノシコオといった、オオクニヌシと同一とされる神さまなどの神話のほか、景行天皇応神天皇神功皇后などの巡幸記も多く、バラエティーに富んでいます。
『常陸国風土記』は主に英雄ヤマトタケルの物語で、彼を『倭武天皇やまとたけるのすめらみこと』と表しているのが特徴的です。
『肥前国風土記』は景行天皇の巡幸がほとんどですが、神功皇后の新羅遠征など、興味深い話が載っています。
『豊後国風土記』も景行天皇の巡幸話がメインです。
逸文には、タケミカヅチの降臨、浦島子うらしまこや各地の羽衣伝説など、神話からおとぎ話まで、幅広いエピソードが散らばっています。

ざっとこんな感じなので、神話だけを寄せ集めると、オオクニヌシが自然と主人公になっちゃいます。人の時代になると、景行天皇ヤマトタケルの親子が主役といった具合です。
オオクニヌシは古事記公式イケメンの神さま。それが、あ~んなコトやこ~んなコトをしちゃったりという、意外な一面が見られます。富士山と筑波山つくばさんが神さまでしかも兄弟だったり、女神さまにもクール系からツンデレ、ヤンデレまで出てきたり。古事記では悲劇として描かれるヤマトタケルも、奥さまとのほのぼのエピソードがあります。
そして話のオチが、ダジャレみたいな地名の由来。それが風土記に記された、不思議な言い伝えです。

ちなみに『風土記』という書名は、詔令しょうれいのどこにも出てきません。律令政府への報告書は『』といいました。今日の私たちが『風土記』と呼んでいるものは、当時『解』と題された公文書でした。『風土記』の呼称は、平安時代、三善清行みよしのきよゆき意見封事いけんふうじ十二箇条にみえるのが、初出とされています。

いまどき風土記とは

風土記ふどきにはたくさんの伝承が記されています。
ただ、ある程度まとまった文量のある説話は少なく、ほとんどがたった数行。でも、全体を通して読み進めていって、感じたんです。すべての話をひとつなぎにできそう、っていうか面白そうだからやっちゃえ、と。
次のような方針で、風土記を再構築リビルドしました。

  • 神さまを軸に(都合良く)時系列にまとめる
  • 諸説ある神さまや一度しか登場しない神さまを(勝手に)名寄せする
  • 話と話の間を(でっち上げて)つなげる
  • 解釈に諸説ある箇所は他の話とつなげやすいほうを選ぶ

風土記を現代語訳していますが、私の勝手な妄想で補っていることをご理解いただいたうえで、お読みくださるとうれしいです。
『国・郡・里(郷)』などの地名は極力省いています。でも気になる方は、最小限わかるように残していますので、どの言葉が地名の由来になったのか、探してみてください。また、詳細は名称一覧ページに載せています(難読漢字のオンパレードで、めまいがするかも)。

文体をラノベ風にしたのは『ラノベ古事記』へのオマージュです。
(Special Thanks:小野寺優様 Site:ラノベ古事記 - 古事記をラノベ風にしてみた
※直接的な関連性はありません。

日本神話の面白さに気づいた人の、「もっと神話が知りたい!」に応えたいと思っています。
そこから踏み込んで、風土記の魅力そのものに気づく人が、増えたらいいな。