コノハナサクヤヒメ

高茅穂の椋生の峰

それから一度天界に戻ったニニギ。今度は、こちらも高茅穂たかちほという名の土地の、椋生くしぶの峰に降臨した。さらにそこから薩摩さつまの国へと向かい、竹屋たかやの村に移り住んだ。
村の長はオオヤマツミ。その娘はアタツヒメ、またの名をサクヤヒメといった。この女神は超が付くほどの美女で、ニニギはひと目で心を奪われ結婚した。ヒメはあれよあれよという間に子供を授かった。
そして。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「……っ!? 産まれた!」

泣き声を聞いたニニギは、あたふたとヒメのそばへ飛んでいった。

「サクヤ……よく頑張ったね」

彼女のほうは、汗まみれで疲れ切っているものの、柔らかなやさしい眼差しを赤ん坊に向けていた。

「見て、あなた……男の子よ。それも、双子」

「双子!? うわ、ほんとだ、びっくりだよ!」

(三つ子だったらもっとびっくりだったよ、って何を考えてるんだ僕は。双子でもスゴいし、何よりサクヤも無事で良かったじゃないか)

「あっ、そうだ。ヘソの緒を切るね。待ってる間に竹で刀を作ったんだ」

血はけがれとされていたので、神聖な竹を使ってはらい清めるのだ。父神の手により母神から離れ、天孫の後継が誕生したのだった。

天孫の系譜は紡がれ、神の時代から人の時代へ。