播磨の国造り
比治・香山・林田
播磨の国での拠点を手に入れたオオクニヌシ。その後は順調に国造りに励むことができた。
比治の里にある村では、平帯を落とした。持ち物を地面に落とすことは、その土地を自分の物にしたことを示す。その村は、平帯にちなんで比良美と名付けられた。
ある日、神にささげる食料がぬれてカビが生えてしまった。庭音の村人たちは大慌て。
「カビ付いてもうとうやん」
「神様へのお供えやのに、どうすんねんこれ」
「ちょう待ちぃな。これ使てお酒醸したらええんちゃう?」
「それや!」
村人たちは機転を利かせて酒を醸造し、庭酒として神にささげ、宴会を開いた。これにはオオクニヌシも喜んだ。
「わぁ、ありがとうございます。この村の人たちはみんなやさしいから、大好きですよ」
必殺の爽やかスマイルがさく裂。イケメンというだけでなく、人たらしでもある彼は、土地の人々にも愛されるようになっていった。
オオクニヌシはまた、稲舂の峰で稲をついた。すると糠が粳前まで飛んでいった。こうしたことで、国に農作物の実りをもたらしたのだ。
宇波良の村を占有したときには、彼は土地を褒めた。
「この土地は小さくて狭いけど、室の入口みたいで素敵だね」
神がたたえた地は豊かになっていく。
安師
オオクニヌシは続いて揖保の郡へ。その里を自分のものとしたときに、鹿がやって来て山の峰に立った。その峰の形が墓に似ていたので、鹿来墓という名前にした。その後、香山の里と改めた。
林田の里を占めたときには、彼が目印を立てたところ、のちに楡の木が生えた。
オオクニヌシは人間に取り憑いてお告げを下すこともあった。ターゲットは安師の里に住む一族。家の中で団らんしていると、突然娘が立ち上がり、普段とはまったく違う声色でしゃべり始めた。
「もしもし聞こえますか? 私はオオクニヌシ。ここら辺を取り仕切っている神なんですが、もちろん知っていますよね? あ、ちょっと娘さんの体を借りています。あなたたちの一族には、私を祀っている神社に、代々に渡って税を納めてほしいんですよ。神戸ってやつですね」
「あわわ……」
族長である父親は、ただただ驚いて畏れるしかなかった。
「……返事は?」
「は、はいぃぃぃ! わかりましたですぅぅぅ!」
やや不機嫌になったオオクニヌシの口調にビビり、族長は慌てて承諾した。
「では、よろしくお願いしますね~……プツッ」
電話の切れたような音とともに、娘は正気に戻った。家の者たちは、愛しい娘を抱きしめずにはいられなかったのだった。
以来、安師の人々は神託を守り、神社を盛り立てていった。
賀毛
オオクニヌシの国造りは賀毛の郡にも拡大。下鴨の村で臼を作って稲をついたら、飛び散った糠が粳岡に飛んでいった。他にも、箕という農具を置いたり、酒屋を作ったりした。
楢原の里の山では、オオクニヌシはご飯を盛った。それで飯盛嵩という名になった。