播磨の八千矛伝説
播磨の女神たち
国造りが軌道に乗れば、生来のプレイボーイが黙っているわけがない。数え切れないくらい矛を持つ男は
オオクニヌシの妻の中に、サクヤヒメという名前の女神がいた。天の最高神アマテラスの孫・ニニギの妻と同名だが、別神だ。しかし本家に勝るとも劣らないほど、その容姿が美しかった。あまりに麗しいので、住んでいた里が
タキリビメもオオクニヌシの妻の一柱。彼の子を身ごもった女神は、
「感じます……私が愛するあの方の子を産むために待ち続けた月々は、やっと
そうして
「私が産むのを待つ時間は
産まれたオオクニヌシの子はとても元気だった。
アナシヒメ
数々のヒメを射止めてきたオオクニヌシがまた、可愛い女神がいると聞き、
「こんばんは……アナシヒメさん、いるかな? 私はオオクニヌシ。あなたに会いたくてここまで来ました。戸を開けてくれるとうれしいな」
そう呼びかけると扉が少しだけ開いて、女神の瞳がちらりと見えた。
(はは、うわさ以上に可愛いじゃないか!)
「今までたくさんのヒメと出会ったけれど、あなたほど美しい人はいませんでしたよ……中に入ってもいいですか?」
「ダメよ」
アナシヒメは即答だった。よく見れば表情ひとつ変えていない。しかしこれしきで引き下がるオオクニヌシではなかった。
「そうですか……いきなり訪ねてきてすぐには無理ですよね。明日ならいいかな?」
「いいえ」
今度もぴしゃり。端正だが無表情な顔に見つめられ、彼は少したじろいだ。
(クールビューティもたまらないなぁと思うが、こうハッキリ拒絶されるとめげそうだね)
「では、明後日改めて会いに来ますよ」
「無駄なこと。いくら待っても、あなたの求婚を受けるつもりはありません」
(ガーーーーーン!! この、私が……フラれた……!? ありえない、ありえなぁぁぁい……)
ブチィッ。
オオクニヌシはキレた。これまでは、微笑みかけるだけで多くの女性の目がハートになった。それで無理でも、多少の駆け引きでベッドインまで持っていけた。それなのに……。
我を忘れた彼は、怒りに任せて大きな石を持ち上げたかと思うと、川の源をせき止めて流れを変えた。そのせいで、アナシヒメの住む村ではなく、
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
大人げない仕打ちをしたオオクニヌシは、逃げるように走り出した。怒りながら泣いている。
「なんだ、この気持ち……胸が焼けるように熱い……! これが、失恋の味……? 熱い……苦しい……ッ……」
たまらず彼は胸元をかきむしり、衣服のひもを引きちぎった。
そんなことがあったので、その村は