オオクニヌシの苦難
播磨へ
「おなかすいてきたな。この辺で魚でも捕ろうか」
巨人の彼は
「よし、かかったぞ。ってこれ、魚じゃなくて鹿じゃないか。……あ、私は今巨大化していたんだったな。それで仕掛けも大きく作りすぎてしまったのか。フフ、うっかりしていたなぁ。まぁいい、せっかく捕まえたんだし、料理して食べるとするか」
(生肉を細かく刻んで調味料で和えれば、鹿の
「さぁ、いただきます……あっ!」
でき上がった料理を口に運ぼうとしたとき、彼はうっかり手を滑らせて、全部地面に落としてしまった。
「ああ……もったいない……」
しょんぼりした彼は、食事を諦めてこの場を去ることにした。しょげた拍子に、体の大きさも元の人間サイズに戻った。
サヨツヒメ
「ほぅ、いいところじゃないか。ここを私の領土にしよう」
「ダメよ、ここは私のものなんだから!」
「だ、誰だ!?」
土地の所有権を訴えた声の主が木陰から姿を現すと、それはオオクニヌシの妹、タマツヒメだった。
「タマ!? なんでこんなところに?」
「お兄ちゃんこそなんで播磨に? 出雲で楽しくやってるって聞いたのに。っていうかタマって呼ぶな」
「もっと国造りを広げようと思ってね。そうしたら、ここまで来たってわけさ」
「ふぅん、お兄ちゃんも頑張ってんのね。でもここはダメ、私の土地だって言ったでしょ」
「ええ、いいじゃないか。豊かにしてあげるよ?」
「ダメなものはダーメ。でも兄妹のよしみで、今晩だけは家に泊めてあげる」
ここはいったん引いて、明日改めて懐柔するか。そう考えたオオクニヌシは、タマツヒメに提供された屋敷で眠ることにした。
そして誰もが寝静まった頃、こっそりタマツヒメは家を抜け出した。鹿を捕らえて戻ってくると、横に寝かせて生きたまま鹿の腹を割き、流れ出したその血に稲の種をまいた。生き血を使った呪術だ。すると、一晩で苗が生えてきた。さらに彼女は、その苗を取って田植えまでし終えた。
起きてきたオオクニヌシはびっくり。寝ている間に田んぼができていたのだ。
「タマ、お前……夜に仕事をしちゃいけないのに、タブーを犯して
「寝ぼすけのお兄ちゃんが悪いのよ。これでもう、ここは私の土地ね! っていうかタマって呼ぶなってば」
まんまと出し抜かれたオオクニヌシは、諦めて他の所に行くしかなかった。
「今日からお前の名前は、五月夜のサヨツヒメだな」
そう言い捨てたが、もはや負け惜しみにしか聞こえなかった。
それから手当された鹿が放された山は、
その後の二神は明暗がくっきり分かれた。
オオクニヌシは
一方タマツヒメ改めサヨツヒメは、
そしてようやく