播磨の神々 2

ハナナミ

他にもよその国からやって来た神がいる。
近江おうみの国の神ハナナミは播磨はりまの国へ来て、花波山はななみやまに住んでいた。

一夫多妻制だった当時、正妻以外にめかけがいるのは珍しいことではなかった。多くの女にとっても当たり前のことだった。
しかし、ハナナミの妻オウミは違った。嫉妬に狂った彼女は血走った目で、川合かわいの里に自分の夫を追い詰めた。

「私だけを見て……ワタシダケヲミテ……ワタシダケヲミテ……」

オウミの手には小刀が握られている。ハナナミは身震いした。

「こ、殺される……!」

ついにオウミは刀を振り上げた。が、刺したのは夫ではなかった。驚くことに、自分の腹を真横に割いたのだ。血を流しながら彼女は、そのままフラフラとそばの沼に身を投げた。こうすれば、私だけを見てくれる……ずっと忘れないでいてくれる……。恨みと怒りと、深すぎる愛ゆえの行動だった。
そんなことがあって、そこは原辟はらさきの沼と呼ばれた。今でもその沼のフナには、はらわたがないという。

ミチヌシヒメ

夫婦にも色んな形がある。
賀眉かみの里の荒田あらたに、ミチヌシヒメが住んでいた。ある時この神が、父親がいないのに子供を産んだ。

「この子の父が誰なのか、誓約うけいをしましょう。それにはまず、お酒を作らないと」

誓約とは神の意思を占うことだ。彼女は占いの酒を醸すために、田を七町作った。すると、七日七夜の間に稲が実った。まさに神業かみわざ
そこで酒を醸造し、たくさんの神々を招いて宴会を開いた。集まった神の中に、父親がいるはず。

「さあ、お前の父上にお酒を注いでおあげ」

母に促されたミチヌシヒメの子は、迷わずアマツヒコネの子マヒトツの前へ進み、酒をささげた。こうして彼が父であることがわかった。

その他の播磨の神々

石坐いわくら神山かみやまには、トヨホが住んでいた。この村周辺は、彼女が治める土地だった。
そこへイヨツヒコが土地を奪おうと攻めてきた。トヨホは蔭山かげやまの里で、これを迎え撃った。二神が戦い合ったときに、かぶとが丘に落ちた。だから、その丘を冑岡かぶとおかと名付けた。

速湍はやせの里には、コナツヒメの妹ヒロヒメが住んでいた。
ヒロヒメがその土地を自分のものにしたときに、辺りに氷が張った。それで、その地を凍野こおりの凍谷こおりだにといった。

それから、タマヨリヒメが的部いくわべの里の高野たかのに、ヨカワが吉川よかわの里に、それぞれ住んでいた。