オミズヌ

国引き神話

物語の舞台は再び出雲いずもへ。
スサノオの系譜はあれから連なり、彼の4世孫オミズヌの時代になっていた。オミズヌからみれば、スサノオはおじいちゃんのおじいちゃんに当たる。
ある日オミズヌは、浜辺に立ちすくんで、寄せては返す穏やかな波をぼんやり眺めていた。

八雲やくも立つ出雲の国は、織っている途中の幅の狭い布のように、未完成の国だなぁ。ご先祖様が初めて造った国だから、小さくお造りになったのかな」

どこまでも続く広い海原を瞳に映しながら、しばらくもやもやと考える。すると、彼の顔がふと、ぱあっと明るくなった。

「そうだ! それなら新しく縫い合わせて、もっと大きくしたらいいじゃないか」

そうと決まれば善は急げ。今度はしっかりした眼差しで、海を見渡した。

「遠く海の彼方の新羅しらぎの岬を、国の余りがないかなぁと見たら、国の余りがあるぞ」

と言って、童女の胸のように平らなすきを手に取って、大地を大魚のえらを突くように突き刺して、魚の肉をほふるように切り離して、三本りの丈夫な綱を投げかけて、霜カズラを手繰るようにクルヤクルヤと、川をさかのぼる船のようにモソロモソロと、

国よ来~いクニコ国よ来~いクニコ

と引いてきて縫いつけた国は、許豆こづの山の稜線りょうせんが尽きた辺りから、杵築きづきの御崎までだ。こうして引いてきた国をつなぎ止めるくいは、石見いわみの国と出雲の国との境にある、佐比売山さひめやまのことだ。また、持って引いた綱は、そのの長浜のこと。
出雲の国が少し広くなった。

続けてオミズヌは、

「出雲の北の門にある佐伎さきの国を、国の余りがないかなぁと見たら、国の余りがあるぞ」

と言って、童女の胸のように平らな鋤を手に取って、大地を大魚のえらを突くように突き刺して、魚の肉をほふるように切り離して、三本縒りの丈夫な綱を投げかけて、霜カズラを手繰るようにクルヤクルヤと、川をさかのぼる船のようにモソロモソロと、

国よ来~いクニコ国よ来~いクニコ

と引いてきて縫いつけた国は、多久たくの山の稜線が尽きた辺りから、佐陀さだの国までだ。
出雲の国がさらに広くなった。

また、

「出雲の北の門にある由良ゆらの国を、国の余りがないかなぁと見たら、国の余りがあるぞ」

と言って、童女の胸のように平らな鋤を手に取って、大地を大魚のえらを突くように突き刺して、魚の肉をほふるように切り離して、三本縒りの丈夫な綱を投げかけて、霜カズラを手繰るようにクルヤクルヤと、川をさかのぼる船のようにモソロモソロと、

国よ来~いクニコ国よ来~いクニコ

と引いてきて縫いつけた国は、宇波うはの山の稜線が尽きた辺りから、闇見くらみの国まで。
出雲の国がますます広くなった。

オミズヌはまだまだ足りないと、

こしの国の都都つうの岬を、国の余りがないかなぁと見たら、国の余りがあるぞ」

と言って、童女の胸のように平らな鋤を手に取って、大地を大魚のえらを突くように突き刺して、魚の肉をほふるように切り離して、三本縒りの丈夫な綱を投げかけて、霜カズラを手繰るようにクルヤクルヤと、川をさかのぼる船のようにモソロモソロと、

国よ来~いクニコ国よ来~いクニコ

と引いてきて縫いつけた国は、美保みほの崎。持って引いた綱は、夜見よみの島。引いてきた国をつなぎ止める杭は、伯耆ほうきの国にある火神岳ひのかみだけだ。

「これで国は引き終わったぞ!」

そして意宇おうの森につえを突き立てて、

「おう!!」

と叫んだ。その顔には汗と喜びの表情が浮かんでいた。これが由来で意宇のこおりの名が付いた。
ちなみに嶋根しまねの郡は、彼が嶋根と命名した。

オミズヌの御子神

伊努いぬさとの中に、オミズヌの子イヌオオスミのお社があった。
彼には妻ミカツヒメがいた。もはや国内を巡り歩くことのできない夫の代わりに、彼女があちこち回った。そうしてとある村に着いたとき、込み上げる気持ちを抑えきれなくなった。

「ああ、我が夫イヌよ……!」

そう言ったことにちなんで、その村を伊農いぬの郷と呼んだ。夫はすでに亡くなっていたのだ。