島と山

四国

イザナミイザナギから最初に産まれた島が淡路島で、次に産まれたのが四国。その四国には、一つの体に四つの顔があった。顔にはそれぞれ名前があり、伊予いよの国はエヒメ、讃岐さぬきの国はイイヨリヒコ、阿波あわの国はオオゲツヒメ、土左とさの国はタケヨリワケといった。
その内のイイヨリヒコの妻の名は、イイモリ。彼女が四国を離れ、瀬戸内海を越えて、播磨はりまの国まで渡った。そして、ある山を占有して住むことにした。
そういうわけで、女神の名前にちなんで、その山を飯盛山いいもりやまと呼ぶようになった。

筑波と富士

イザナミイザナギは国土を産んだ。その中には山々があった。山もまた神で、子供を産むこともあった。
ここに、ツクバの神とフジの神という山の兄弟の、親にあたる女神がいた。祖神おやがみと呼ぶことにしよう。
祖神は多くの神々の所を巡り歩いていて、駿河するがの国の富士山に着いた頃、とうとう日が暮れてしまった。

(あらあら、暗くなってきたわ。どこかに宿を借りたいところだけど……あ、ここは富士山じゃないの。あの子の家があるわ。泊めてもらいましょう)

祖神はフジの住処に行って、一晩の宿を求めた。ところが玄関から顔をのぞかせたフジは、困った顔をしている。

「ああ~……すみません、母上。ちょうど今日は新嘗祭にいなめさいをして、家の中は物忌みしてるんですよ。お泊めしたいのはやまやまなんですけど……」

「え……他でもないお前の親なんですよ。どうして泊めてくれないの?」

母の今にも泣きそうな顔を見たフジは、ばつが悪そうに目をそらし、髪をぐしゃぐしゃとかいた。

「は、母上もご存じでしょうが、今夜は誰であっても家に入れることができません。わかってください……ね?」

「お前はこう言いたいのね……祭りの夜に不浄を避けて、心身を清めるしきたりを守りたい、と。でもそんなの建前でしょう!? 体よく追い払いだけでしょう!?」

祖神は、悲しいやら寂しいやら憎らしいやらで、涙がこぼれた。フジは目を伏せたまま押し黙っている。

「ひどい……お前が住んでいる山は、一生涯、冬も夏も雪が降り霜が降りて、寒さがたびたび襲い、人々は登らず、食べ物を供える者はいなくなるでしょう」

「ちょ、母上? 何その呪いみたいな言葉!? 不気味なんですけど」

捨てゼリフを残し祖神は、すっかり日が落ちた真っ暗な中を、トボトボと今度は筑波山つくばさんに登った。

(フジがダメでも、この山にはツクバがいるわ)

出迎えたツクバは、夜の訪問者が母親だと知って驚いたものの、笑顔で家の中に招き入れた。

「今夜は新嘗祭をしておりますが、それを敢えて、母上のお気持ちに逆らうようなことはいたしませんよ。さあ、どうぞお上がりください」

そうして飲食を用意し、心を込めて手厚くもてなした。これには祖神はとても喜んだ。

「ああ、愛しい我が子よ、高くそびえる神の宮・筑波山よ。天地や日月が無限であるように、人々は集まって祝い、食べ物は豊かに、一族は代々絶えることなく、日増しに栄え、千秋万年も楽しみは尽きないでしょう」

言葉に宿る神秘的な力が働く。
こういうわけで、富士山は、常に雪が降って登ることができない。一方の筑波山は、人々が集って歌い踊り、飲み食いすることが、現在に至るまで絶えないのだ。

天香久山

山々のすべてが国土から産まれたわけではなくて、天界から降った山もあった。
天香久山あまのかぐやまは、天降あまくだるときに二つに分かれて、大和やまとの国に降りたその片方がそれだ。
阿波あわの国では、分かれた大きなほうが天本山あまのもとやまだと言い伝えられている。
一方、伊与いよの国では、それは天山あまやまのことだという。
天香久山の片割れは阿波にあるのか、伊与にあるのか。昔のことすぎて、結局どちらが正しいのかわからないし、どちらも正しいのかも知れない。