イザナギとタケミカヅチ

神産みの時代の出雲

イザナミが神産みをしていた時代にも、人の生活があった。
人々が日渕川ひぶちかわを利用して池を築いた。そこへ、こしの国の人たちがやって来て、堤防を造り住んだ所が、古志こしさとだ。
その一方で神の営みがあった。
イザナミと別れたイザナギ(神だってイロイロあるんです)は、千酌ちくみうまやで、ツクヨミを産んだ。

タケミカヅチの降臨

さて、ついにあの宣言に従って、イザナミイザナギの孫が地上に降りるときが来た。その名はタケミカヅチイザナミイザナギの子であるカグツチから産まれたので、二柱(神ははしらで数える)の孫といっていいだろう。
高天原たかまのはらに再び集まった八百万やおよろずの神々は、タケミカヅチ豊葦原とよあしはら水穂みずほの国、つまり地上を委託しようと決めた。彼らを代表して、一柱の神が高らかに宣言した。

「今の地上は、荒ぶる悪い神たちがはびこっていて、石や木立、草の葉っぱまでもが言葉を話している。それに昼は五月のハエのようにうるさくて、夜は妖しい正体不明の火が輝いている。まことに嘆かわしい状態だ。しかしこれらを従わせ、平定する大御神おおみかみこそが、タケミカヅチである」

その声に、目つきの鋭い男神が威勢よく応えた。

「おうよ、オレに任せな。あんなザコどもは、地上に降りた瞬間にぶっ潰してやる」

タケミカヅチだ。コワモテだが立派な天の神で、雷神として知られている。
その勢いのままに、タケミカヅチは天界から地上へ降臨した。そして常陸ひたちの国に住処となる神殿を造った。それを、天界においては日香島ひのかしまの宮と名付け、地上においては豊香嶋とよかしまの宮と呼ばれた。それが現在の鹿島神宮かしまじんぐうだ。
こうして彼は、地上を平和な国にするため、アマテラスに仕えることになった。アマテラスは後に天皇の御先祖様となる。

時を同じくして、フツヌシもまた高天原から降った。
カグツチの孫にあたるフツヌシは、鋭い眼光がどことなくタケミカヅチに似ている。だが彼はどちらかというと寡黙で、静かに仕事をするタイプだった。
神は地上のことを、葦原あしはらなかつ国とも呼んでいた。フツヌシはその葦原の中つ国をくまなく巡って、山や川などに居着いた荒ぶる神の類いを討ち平らげた。剣の神だから戦闘が得意。彼が剣を「フッ」と振るえば、敵は一瞬にして真っ二つに斬り裂かれる。荒れていた土地も、あっという間に穏やかになった。
平定を終えたフツヌシは、天界に帰ろうと思った。そして、身に付けていた武器(土地の言葉で、伊川乃いつのかぶとほこたてつるぎという)と持っていた宝玉を、ことごとく脱ぎ捨てて留め置くと、颯爽さっそうと白雲に乗って、青い空に昇っていった。
地上に降りるなり悪を滅ぼし、すぐさま帰っていく。まさに仕事人。

天橋立

ところ変わって丹後たにはのみちのしりの国。イザナギ速石はやしの里にいた。

イザナミとは別れちゃったし、これからのことをみんなに相談したいな。そうだ、高天原たかまのはらに昇るためのハシゴを作ろっと」

天に届くほどの長い長いハシゴを作るとなれば、さすがの神力をもってしても大変な重労働だ。完成したハシゴを立て掛ける頃には、へとへとになっていた。

「うぅ~ん、できたぁ。ちょっと疲れたし、ひと休みしよ……ふわぁ」

そうしてイザナギが寝入っている間に、ズズズズ……とハシゴが倒れ伏せてしまった。目覚めた彼は不思議そうに首を傾げた。

「おっかしいな~。神力を込めて立てたんだから、自然に倒れることなんてないはずなのに。僕にも計り知れない力の働きくしびがあったのかな」

この伏せたハシゴが天橋立あまのはしだてという、あの有名な岬だ。その後、久志浜くしはまとも呼ばれるようになった。