カムムスビの御子神たち

キサガイヒメとウムギヒメ

出雲いずもに縁の深い神々は他にもたくさん。カムムスビは、高天原たかまのはらに最初に現れた三柱の神のうちの一柱だ。カムムスビには性別がない、つまり男でも女でもない神。それでも神は何でもアリなので、子供がいる。彼らもまた出雲各地に住んでいた。

カムムスビの子キサガイヒメはある時、相手もいないのに妊娠してしまった。

「不思議なことがあるものだわ。ショックがないといえばウソになるけど、これには大きな意味が秘められていると思うの。きっとこの子を産んでみせるわ」

そして、もうすぐ産まれそうなときになって、大切にしている弓矢がなくなっていることに気づいた。神埼かんざきにある洞窟で、出産を終えたキサガイヒメは祈った。足下には産まれたばかりのサルタヒコがいる。

「私の子が強く勇ましい神の御子みこならば、なくなった弓矢よ、出てきなさい!」

そうすると、角でできた弓矢が、洞窟を通る川の水流に運ばれて出てきた。それを取って確かめる。

「違う、これは私のじゃない」

彼女は角の弓矢を投げ捨てた。すると今度は、黄金の弓矢が流れてきた。近くに来るまで待って拾い上げる。

「そう、これよ、私の弓矢は。見つかって良かった……願いが通じたのね。やっぱりこの子は、特別なのよ。それにしても暗い岩屋だから、手元で見ないと自分の物だとわからなかったわ」

それならと、キサガイヒメはおもむろに金色の矢をつがえた。金の弓を引きしぼり矢を放つと、岩壁を射通した所が、まばゆいばかりに光り輝いた。
彼女の社殿はここ、神埼に鎮座している。
余談だが、今の人がこの洞窟の辺りを通るときには、必ず大声を上げながら進む。もしこっそりと行くと、神が現れて旋風が起こり、通る船は必ず転覆するからだ。

ところで、昔の宍道湖しんじこはまだ湖ではなく、陸地に入り込んだ海だった。カムムスビの子ウムギヒメは、法吉鳥ほうきどり(ウグイス)に化けてその内海を飛び渡り、法吉ほうきさとに移り住んだ。
彼女のお社は、秋鹿あいかこおりにもある。

ナガヨリヒコとキヒサカミ

女神を続けて紹介したが、カムムスビの子には男神もいる。ナガヨリヒコはとある村にいた。

「私の心は安らかで憤らないいくまず

彼がそう言ったので、その土地を生馬いくまの郷と呼んだ。

キヒサカミもカムムスビの子だ。別名シツチチともいい、漆治しつちの郷に住んでいた。
神名火山かんなびやまの峰にも、彼の社殿がある。