スサノオとクシナダヒメ

安来

その後、とうとうスサノオは、天の壁がそそり立つ地の果てまで国々を巡り歩いた。そして、安来やすきさとにたどり着いた。

「これで隅々まで見回れたな。達成感があるぜ……おお~、俺の心は安らかになった。よし、それにちなんで、この土地を安来と名付けよう!」

出雲に来て初めに神殿を建てた土地でも、似たようなことした気がするな、と思いながらも彼は満足そうな顔を浮かべた。

熊谷

国巡りをしていたスサノオだったが、やることはやっている。クシナダヒメが子供を身ごもったのだ。
それから数か月後のこと。クシナダヒメは、大きく膨れた自分のお腹を愛おしそうに見つめていた。

「そろそろ産まれそう……」

「ええっ!? ど、どうすりゃいいんだ!!」

スサノオはただ慌てるばかり。

「なんたって英雄スサノオの子だからね、産むにしてもそれに相応しい場所があると思うの。今から探しに行くわ」

「今からって、大丈夫かよ!?」

「大丈夫。あんたの子なんだから、きっとバカみたいに頑丈よ」

「いやっ、お腹の赤ん坊も確かに大事だけどよ、俺はお前の体の心配をしてんだ!」

「クスッ、やさしいねスサノオは。でもこれも大切なことなのよ」

結局、スサノオに付き添われながら産む場所を求めたクシナダヒメは、熊谷くまたにの郷に着いたとき、ふいに立ち止まった。

「とっても“くまくましい”谷ね。不思議な力が、赤ちゃんに注がれてくるみたいに感じる……決めたわ、ここにしましょう」

「こんな山奥でか!? 熊でも出そうじゃねーか!?」

「バカね、くまくましいってそういう意味じゃないわよ。奥が隠れて見えないほど山深いって言ってるの」

「お、おう」

その後、出産小屋を建てたりバタバタしたものの、無事に子供が産まれた。
こうして、スサノオの系譜は紡がれていく。