出雲の八千矛伝説

滑狭・八野・朝山

オオクニヌシは自他共に認めるイケメン、モテて仕方なかった。初対面の女性をその場で押し倒したこともある。それが許されてしまうくらいだ。
そんな彼の正妻が、スサノオの娘スセリヒメ。彼女の家は神門かんどこおりにあり、オオクニヌシは結婚してそこへ通っていた。夫が妻の元に通う、いわゆる通い婚が当時は一般的だった。

「わぁ、ヒメの家の前にある岩、なんて滑らかなんだ」

そんな彼の言葉から、その村は滑狭なめささとと呼ばれるようになった。

モテる男が女性一人で満足するはずもなかった。八十神を倒して出雲いずもの国の王になったオオクニヌシは、手始めに国内でうわさになっている美女を、全員側女そばめにすることにした。一夫多妻制って素晴らしいよね、と彼はほくそ笑んだ。
まず、スサノオの子ワカヒメと結婚しようとして、八野やのの郷にはを建てさせた。
カムムスビの子ムラヒメのいる朝山あさやまの郷には、毎朝のように通った。

アヤトヒメ

同じくカムムスビの子のアヤトヒメにも求婚した。その時、女神は断って逃げ隠れた。女は一度拒否して逃げて、男はそれを追いかける。これも当時の習慣で、いってみれば様式美。アヤトヒメは内心OKだった。

「ヒメ~? どこに隠れたんですか?」

宇賀うかの郷でオオクニヌシは、あちこち中をのぞきうかがって女神を探した。

「ここかな? ……みつけましたよ」

「あっ……オオクニヌシ様……」

彼に居場所を突き止められたアヤトヒメは、潤んだ瞳で彼を見つめ返した。

こんな調子で着々ときれいな女性を集めていったオオクニヌシは、八千矛やちほこ(たくさんの矛を持つ男)などとも呼ばれたとか。