八十神

城名樋山

オミズヌの孫、スサノオから数えれば6世孫のオオクニヌシが、ここからしばらく物語の主人公だ。
オオクニヌシにはたくさんの兄弟がいた。あまりに多いので、ひとまとめに八十神やそがみと呼ばれていた。彼は八十神にヒドい仕打ちを受けたが、試練をくぐり抜けたことで仕返しできるまでに強くなって、出雲いずもの国に帰ってきた。

(さぁ~てと、あのクソ兄貴たちをブチのめしに行くとしようか。あいつらに私がされたことは、ヒドい仕打ち……なんて生易しいものではない、なんせ二度も殺されたんだからね。でも、今の私なら簡単にねじ伏せられる気がするんだよ)

オオクニヌシはまず城名樋山きなびやまに、八十神を打ち負かすためのを造った。

(う~ん、ちょっと慎重すぎるだろうか。まあいい。備えがあるに越したことはないしね)

彼はもう死んだものとばかり思っていた八十神は、そんなことが行われているとは気づきもしなかった。

来次

準備が整ったオオクニヌシが八十神を探していると、来次きすきさと追いつききすき、向かい合った。

「やあ、兄さんたち」

不気味なほどの爽やかスマイルで、オオクニヌシは八十神に声をかける。

「オオナムチ!? お前はの国に行ったはずじゃ……」

「オオナムチではなく、今はオオクニヌシと名乗っております。根の国は邪神ばかりの世界かと思っていましたが、そんなことはありませんでしたよ」

「フン、オオクニヌシとはまたずいぶんエラソーだな。また生き返りやがったのか。厄介払いできたと思ったのによ」

「おやおや? 私にそんな口の利き方をしていいんでしょうか?」

「「うるせー! 今度こそ戻ってこれないようにしてやる!!」」

回りくどいことをせずオオクニヌシに襲いかかった八十神だったが、それはそれはあっさりとコテンパンにやっつけられた。

「兄さんたちは、この青々とした垣根のような山の中に入れませんからね!」

オオクニヌシが叫んで追い払うと、クモの子を散らすように八十神は逃げていった。

(この国にとって邪魔なのは、あいつらのほうだよね。さあ、これで心置きなく国中の美女を我が物……ではなく、土地を豊かにしていけるよ)

色んな意味で、オオクニヌシの時代が始まる。