播磨の御子神たち

ヒメ・ヒコ

播磨はりまの国には、ホアカリの他にもたくさんオオクニヌシの子がいた。例えば、アガヒコとアガヒメは、英賀あがの里に鎮座していた。
衣服を縫う仕事をする氏族の祖先が、林田はやしだの里の伊勢野いせのに住むにあたり、まずはお社を山の麓に建てた。住む場所を守護する神を大切にしたのだ。その山の峰にいたのがオオクニヌシの子、イセツヒコとイセツヒメだった。

高野たかのの里の祝田ほうだのお社に住んでいる、タラシヒコとタラシヒメもまた、オオクニヌシの子供だ。
讃容さよの郡でタラシヒコとタラシヒメの間に産まれたオオイシは、父のうらに適う良い子だった。それで、誕生の地を雲濃うのの里と名付けた。

イワタツヒメ

オオクニヌシの子イワタツヒメは、常に屈んで歩いていた。南の海から北の海へと抜け、東から巡っていったときに、託賀たかこおりに着いた。

「他の土地はぬかるんでたから、足を滑らせそうで怖かった。そのせいでずっと中腰だったけど、ここなら背を伸ばして歩けるわ。うぅ~ん、いい所だなぁ」

彼女の踏んだ足跡は多くの沼となった。巨神だったのだ。
揖保いいぼの里の神山かみやまに、彼女は住んだ。
イワタツヒメが、波多為はたいの森に立ち、他の良い土地を求めて占ったときのこと。

「この弓を射て、矢の届いた所が良い所!」

こう宣言して放たれた矢は広山ひろやまの里に届き、ことごとく地中に突き刺さって、ただつか握りこぶし一個分だけが地上に出ていた。それで都可つかの村と名付けた。

イワタツヒコとイワタツヒメが、美奈志川みなしがわの水を争い合ったことがあった。イワタツヒコは北側の越部こしべの村に、イワタツヒメは南側のいずみの村に、各々流そうと考えていた。
イワタツヒコもまた巨神。その大きな足で、山の峰を踏み潰した。

「これで地形が変わって、俺の村のほうに流せるぞ」

「なんてことを。元はといえば、私の村の泉から流れ出てるものよ。それを自分の所に流そうだなんて、道理に反するわ」

「へへん、関係ないね。川の向きはもう変わったんだ」

「だったら、またそれを変えるまでよ」

イワタツヒメは巨大な指櫛さしぐしで、その流れる水を塞いだ。さらに、峰の辺りから溝を新しく開発して、泉の村へと流れを正した。

「やりやがったな! そういうつもりなら、お前の村の近くから奪ってやる。これで水が西側の桑原くわばらの村に来るぞ」

イワタツヒコの所業に、イワタツヒメはついにキレた。

「許さない……絶対にあんたに水は渡さないんだから!」

彼女は地下を通すための下どいを作り、泉の村の田の近くから流し出すようにした。こうして川の水が絶えたので、水のない川、美奈志川となった。