タケイワシキ

神前山・都多支

神前山かむさきやまに住んでいるオオクニヌシの子は、タケイワシキといった。
ある時、サヌキヒコという讃伎さぬきの国の神が、瀬戸内海を渡り播磨の国にやって来た。

「この国に、四国にまで評判が届くほどの、すっごい美人がいるって聞いたんだよね~。確かこの辺のはずだけど」

彼はヒカミトメの家の前に立ち、中に呼びかけた。

「ヒカミトメさん、いらっしゃいますか?」

「何か御用?」

応対に出たヒカミトメの美貌に、サヌキヒコのハートは一瞬で撃ち抜かれた。舞い上がった彼は、いきなり本題に入った。

「ぼっ、僕と結婚してください!」

「え~……嫌です(名乗りもしないでいきなりとか、何こいつ)」

「絶対に幸せにしてみせますから!」

「いやいや無理無理。あのね、私にはすでに愛しい人がいてですね……」

「二人で讃岐を豊かにしましょう!」

「あの、人の話聞いてます?」

「さあ、語らいましょう!」

サヌキヒコはヒカミトメの腕をつかみ、強引に家の中に入ろうとした。

「ちょっと、どういうつもり!? タケイワ、なんとかしてぇ!」

怒った女神が呼び寄せたのが、タケイワシキ。

「おい、てめぇ。トメ様に何しやがる」

どすの利いた低音でサヌキヒコを止めたタケイワシキの手には、矛が握られている。

「ひぃっ……! こ、こいつを倒せば妻になってくれるってわけですね? や、やってやりますとも」

二神は互いに武器を手にして戦い合った。が、サヌキヒコは押され続け、都麻つまの里で負けた。

「うう、僕はなんて拙いんだ……」

そうつぶやいたので、その地は都多支つたきと名が付いた。

法太・甕坂

「おいこら、ま~だそんなとこにいやがったのか」

タケイワシキはなおサヌキヒコににじり寄る。

「ひぇぇっ!」

あまりの恐ろしさに腰を抜かしたサヌキヒコは、手でいつくばって逃げた。それでそこは法太ほうだの里という名前になった。

「待てこらぁ!」

「ぎゃーっ!!」

タケイワシキはサヌキヒコを徹底的に追い立てて、甕坂みかさかにまで至った。

「もぉ許して、許してくださいぃ~!」

「てめぇこら、二度とうちのシマに入るんじゃねぇぞ!」

そう怒鳴ると、タケイワシキは御冠みかんむりをこの坂に置いた。まるで見張りを立てたようだった。サヌキヒコは情けない声を上げて、故郷に帰るしかなかった。