出雲の御子神たち

山代・美保・美談・多伎

出雲いずもオオクニヌシの拠点。この国にも多くの彼の子供たちがいた。
ヤマシロヒコは山代やましろさとに、オオクニヌシとヌナカワヒメの子ミホススミは、美保みほの郷に住んでいた。

オオクニヌシの子の一柱、ワカフツヌシは、美談みたみの郷で、父の御領田みしろたを管理する長を任されるほど、優秀だった。
彼が秋鹿あいかこおりで狩りをしたときのこと。郷の西の山に待ち伏せする人を立たせておいて、彼はイノシシを追って北のほうへと上った。ところが、阿内谷くまうちだにに着くと、そのイノシシの足跡が消えた。

「自然に消えたんだな。イノシシの足跡が無くなったうすぞ」

その言葉から内野うつのと名が付いたのだが、現在は誤って大野おおのと呼ばれている。

多伎たきの郷に住んでいるタキキヒメも、オオクニヌシの子だ。

アヂスキタカヒコネ

子だくさんのオオクニヌシだったが、ホアカリとはまた別の意味で手こずる子供がいた。なにせ産まれてからずっと、泣きやまないのだ。名をタカヒコネという。
出雲いずもの国に帰ってからというもの、オオクニヌシは毎日ろくに眠ることができずにいた。目の下には大きなクマまで作っている。

「うあああああああああああんっっ! うあああああああああああんっっ!」

「うぅ……こう昼も夜もなくギャン泣きされると、キツい。わけを聞いても、ただ泣き続けるばかりだし……ノイローゼになりそうだ」

とはいえ、このままではどうにもならないと、寝不足で回らない頭で必死に考えた。

「そ、そうだ。高床式住居を用意して、そこにこの子を住まわせよう」

そんなわけで、高岸たかきしさとに、床の高い家を造った。そして高いハシゴを立てて、世話をする人はそれを昇り降りして、養育するようにした。

「やれやれ……これで多少は泣き声も遠くなったな。はぁ……今はただ、ゆっくり寝かせて……」

その晩、オオクニヌシは久しぶりに熟睡することができた。

しかし、その後もタカヒコネの涙は止まらず、来る日も来る日も泣き続けていた。

タカヒコネ、今日も泣いているな……体は立派になったし、ヒゲだって、握りこぶし八つ分にもなるほど長く生えてきたというのに。言葉さえまだ通じない……何が悪いのか……どうにかして慰めてあげたいよ」

オオクニヌシタカヒコネを船に乗せて、島々を連れ回してみたが、やはり泣きやむことはなかった。

「ダメだ……もうどうしたらいいかわからない。情けないな、親なのに……」

うなだれたオオクニヌシは、夢に願うしかなかった。

「どうか、我が子の泣くわけを教えてください……!」

この祈りが通じたのか、その夜の夢に、子と言葉が通じるさまを見た。翌朝、目覚めるなり父は息子の元へと走った。

タカヒコネ! しゃべれるか!?」

「……ミサワ」

「ッ!! しゃ……しゃべったぁ! でもいきなり意味不明だな。まぁいい! 良かったぁ~。で、ミサワってどこのことだい?」

親神に尋ねられたタカヒコネはその前を立ち去り、家を出ていった。慌ててオオクニヌシはその後を追う。彼はそれから石川を渡り、坂の上に着いて、ようやく立ち止まった。

「ここだ」

タカヒコネがそう言うと、そこにあった沢から水が流れ出た。

「そうか、ここがミサワかぁ! ではここは三沢みさわの郷という名前にしよう!」

それから、親子はそろって沐浴もくよくして身を清めたのだった。