スクナビコナとの別れ

粟嶋

元気になったオオクニヌシとスクナビコナは、今度は出雲(いずも)の国にいた。仲良く国内を巡り歩いたときに、どちらが落としたのか、稲種が多祢(たね)の郷(さと)にまかれた。二柱はともに農業神、この土地にも恵みがもたらされたのだろう。
しかし別れは突然やってきた。となりの伯耆(ほうき)の国に寄ったときのこと。余戸(あまりべ)の里の粟嶋(あわしま)で、スクナビコナが粟(あわ)をまいたところ、実が穂一杯に実り、重たく頭を垂れるほどだった。

「わぁ~、たくさん実りましたね~」

オオクニヌシに褒められたスクナビコナは誇らしく、またうれしくもあった。キラキラと瞳を輝かせ、一面黄金色の粟畑を眺めている。
浮かれた彼は、ぴょんとそれに飛び乗った。するとその反動で、粟の穂はバネのように、スクナビコナの小さな体を弾き飛ばした。

「うっひゃ~! さいならぁぁぁぁぁ……」

叫び声が遠ざかるにつれ、彼の姿は見えなくなっていった。

「ええ~ッ!? スクナビコナさぁぁぁんッ!! ……行っちゃった」

空の彼方に飛んでいったスクナビコナは、こうして常世(とこよ)の国まで渡った。

髪梳の神

国造りの仲間が去ってしまったオオクニヌシ。

(あの子、どこかへ行ったっきり帰ってこないし。また私だけでやるのかぁ。大隅(おおすみ)の国の様子が気になるんだが、ちょっと遠いんだよね~。誰かに見てきてもらおうか)

「あ、ちょっとそこの人、いいですか?」

オオクニヌシは、たまたま近くを通りかかったお供の人を呼び止めた。

「は、はい」

「お願いがあるんですけど、大隅(おおすみ)の国まで行って、検分してきていただけませんか?」

「えっ……(遠い)……わ、わかりました。行って参ります」

「ありがとうございます! あなたって頼りになるなぁ。帰ってきたら、もっと大事な仕事をお任せしようかな~」

ここで営業スマイルさく裂。男もその気にさせてしまう、真正の人たらしだ。
勇んで使者ははるばる大隅(おおすみ)の郡まで出張し、状況を詳しく調べて戻った。

「オオクニヌシ様、ただいま戻りました」

「ご苦労様でした。報告を聞かせてください」

「はっ。かの地には髪梳(くしら)の神がいらっしゃいました」

「クシをすく神、か……ではその村の名前は、髪梳(くしら)の村とするのが良いですね」

「は、はぁ……」

それでその村を久西良(くしら)の郷というようになった。髪梳をクシラというのは隼人(はやと)(九州南部の部族)の方言だ。後に改めて、串卜(くしら)の郷とした。