スクナビコナの危機

伊予の湯

二神は伊予いよの国に向かっていた。
その途上、オオクニヌシは悔やんでいた。端正な顔をゆがませて頭を抱えている。

(ああ~っ! なんであんなこと言っちゃったんだ私! ウン〇ウ〇チ連呼しちゃったし。しかもそっち我慢するほう選んじゃったし。おまけに、あんな……あぁぁぁぁ、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!)

苦悶くもんの表情の彼の横には、こちらも苦しそうな様子のスクナビコナ

「気持ちが悪い~、めまいがする~……」

言い終わる前に、スクナビコナは大の字に倒れてしまった。気絶している。

「え、ちょっと、スクナビコナさん!?」

オオクニヌシは、始め遠慮がちに、それから強く揺さぶってみたが、彼が起きる気配はまったくない。

「もしかして、この子にも無理させちゃった!? あんな重いもの担がせて、何日も歩いたもんな……体弱かったんだね、なのに……ああ、くそっ」

二重の意味で後悔したオオクニヌシ

「まさか、死んじゃったってことはないよね? ……どっちにしても、このままというわけにはいかない。う~ん、ここからなら……そうだ、別府温泉……じゃなかった、大分おおきだの国にある速見はやみの湯が近いな。それを使えば、生き返らせることができるかも知れない」

急いで彼は暗渠あんきょを通って大分おおきだの国まで行き、温泉を両手ですくうと、伊予いよの国のこおりまで持って帰った。そして小さな体のスクナビコナを、手のひらの温泉に浴させた。すると、しばらく間があってからよみがえった。

スクナビコナさん! よかったぁ」

「……ああ? ちょっと寝てただけだって~」

「もぉ、心配しましたよ~!」

「いてぇって」

オオクニヌシは顔をくしゃくしゃにして、思わずスクナビコナを胸に抱きしめた。
なお、彼が叫びながら踏みつけた跡が、今も道後温泉内の石の上に残っている。