国譲り前

アメノホヒとアマツコ

さて、話を再び出雲いずもの国に戻そう。
高天原たかまのはらに住んでいる、神々の中で最も貴いアマテラス。その命により、彼女の孫ニニギ豊葦原とよあしはら水穂みずほの国、すなわち地上を統治することとなった。それに先立ち、アマテラスの子アメノホヒが天から降臨した。
出雲に降り立ったアメノホヒは、意宇おうこおり野城のぎうまやに家を構えた。
彼のお供として天降あまくだりしたアマツコは、社伊支やしろのいきらの祖先。彼も意宇の郡を通ったときに、こう言った。

「ここは私が鎮座しようと思えるような社である」

それでその村は屋代やしろさとといった。

アメノヒナトリとフツヌシ

国土の状況を確認したアメノホヒは、ひとまず天界に戻り、アマテラスに報告した。それから、地上を平和な国にするべく、自分の子であるヒナトリにフツヌシを付き従えさせて、天降りさせた。
フツヌシといえば、国産みの時代にも成果を上げた、タケミカヅチに似た顔立ちの寡黙な武神だ。今回も、彼の任務は荒ぶる神を平らげること。戦いに備えて、石のように堅いたてを縫い直したことで、そこは楯縫たてぬいの郷と呼ばれるようになった。
賊を討つために国内を巡歴したフツヌシはふと、山国やまくにの郷で立ち止まった。

「……ここは、いつまでもやまずに見ていたい」

口数の少ない彼が思わずつぶやいてしまうほど、どうやらその地が気に入ったようだった。
ヒナトリは平定後も天界へは帰らず、飯石いいしの郷に住み着いた。
そんな彼らの活躍は省略するが、ともあれ地上は安寧になった。